「 個人的感情を外交に持ち込む愚 」
『週刊新潮』 '05年11月17日号
日本ルネッサンス 第190回
11月20日からロシアのプーチン大統領が来日する。2000年9月に来日した時のように、今回も彼は北方領土問題について、日本側の期待に応える気は全くないだろう。
ここ数ヵ月頻りに、北方領土について日露間には「共通の交渉の基盤がない」「4島は日本が侵略戦争に敗れた結果、取り上げられたものだ」などの声がロシア側から聞こえてくる。プーチン大統領も9月27日、「4島はロシアの主権下に置かれている。この点について議論する気は全くない」と述べた。
今年1月28日、東京で行われた日露専門家会議では、領土問題は歯舞、色丹の2島を返還して終わりだとする意見がロシア側から相続いた。彼らはまるでコーラスのように「2島で終わり。それ以上は無しだ。それでいやならゼロだ」という日本には受け入れ難い強硬意見を述べたが、明らかにロシア政府の意向を反映していたのだ。プーチン大統領の思惑は2島返還は考えてやってもよいが、その前に4島がロシアのものであることを認めよ、ロシアの主権を日本が認めれば2島引き渡しの交渉を開始するというもので、残りの2島は全く返す気はないのだ。
これまでの日露交渉で、両国間に存在する未解決の問題に領土問題があり、それは歯舞、色丹、国後、択捉の4島で、4島の帰属問題を解決した後平和条約を結ぶというところまで確認されている。右の内容は93年10月に、細川護煕、エリツィン両首脳が署名した東京宣言に明らかだ。
平和条約は戦った国同士が、領土の割譲や賠償などの講和条件を実行し、戦争が終わったことを正式に宣言するものだ。日本にとって平和条約の締結は、元々日本の領土である4島の主権が日本にあることをロシアに確認させることを意味する。繰り返すが、東京宣言では、4島の日本帰属を認める地平に、ロシアが事実上一歩踏み込んでいた。
橋本元総理の責任
しかし、いまや、当時の状況は暗転しプーチン政権は4島に対するロシアの主権を日本が認めることが先決だと言い始めた。日本の主権を認める方向だったのが、反対になったことに見られるように、北方領土交渉において、日本はこの10年ほどの間、後退に後退を重ねたのだ。原因は日本側にある。個人名で言えば、橋本龍太郎、鈴木宗男、東郷和彦、佐藤優ら4氏の責任が極めて大きい。
橋本氏の定見なきロシア外交によって、日本の国益は深刻に損なわれてきた。
氏は97年4月、経済同友会で講演し、日露関係を改善するため、「信頼、相互利益、長期的視点」の三原則を打ち出し、領土問題については「勝者も敗者もない解決」を目指すと言い、さらにこの事を理解するのに「50年かかった」と述べたのだ。
橋本発言は、それ以前の日ソ・日露外交を完全に否定するものだ。日本が4島一括返還の主張を土台に、揺らぐことのない交渉を重ね93年の東京宣言にようやく辿りついた成果を、溝に捨てるに等しい。
外交に於て揺らいだり、おもねったりすれば、足元を見られ、ほぼ例外なく失敗する。重要なのは、自国の主張や立場を決して揺るがせにしないことだ。特に、領土問題の解決には長い時間がかかるが、そのことを覚悟して、機が熟せば、間髪を容れず、領土奪還の策を打てるように、準備万端、整えておくことが肝要なのだ。にもかかわらず、橋本氏らは揺らぎ、おもねり、焦った。
西ドイツは、45年にわたる東西分断の歴史を経て、最初に訪れたチャンスを逃さず、あっという間に統一を成し遂げた。民族統一への熱い想いと、国家としてのドイツの基盤、在り方を、国の指導者層が瞬時も忘れていなかったことの証左だ。対して日本の指導層の意識はどうか。
日本はこれまで北方領土に関しては3度大きなチャンスに恵まれてきた。最初は1953年3月のスターリンの死去の時だったと新井弘一氏は指摘する。氏は1973年に訪ソした田中角栄首相を外務省ソ連担当課長として補佐した人物だ。
スターリンの後を継いだフルシチョフは、54年9月、日ソ国交正常化を呼びかけ、翌55年に、ロンドンで日ソ交渉が開始され、56年12月に日ソ共同宣言発効に漕ぎつけた。ただ、国交は樹立したが、領土問題については平和条約締結後に歯舞と色丹の2島を日本に返還し、残り2島については協議するとされた。
その後東西冷戦が激しくなるにつれ、ソ連は日本に強硬姿勢をとる。領土問題は継続交渉との合意にもかかわらず、解決済みと言い始めた。日米新安保条約の締結はソ連に脅威をもたらすとして、2島の返還の条件に「日本領土からの全米軍の撤退」をあげてきた。
愚かな失敗を繰り返すな
領土問題は日ソ2国間関係だけでなく、当然、国際政治の力学の変化によっても大きく影響される。ソ連の強硬姿勢は70年代初頭にまたもや国際社会の変化によって突然軟化した。きっかけは米中接近である。
71年7月、ニクソン政権が発表した米中接近は、アジアでの日米中の対ソ包囲網の形成にもつながりかねない。孤立を恐れたソ連は日米に楔を打ち込むべく、日本に接近、72年1月にはグロムイコ外相が日本を訪問した。ソ連側から働きかけて実現したこの訪問で、ソ連は平和条約締結交渉の再開を提案したのだ。領土問題は解決済みと主張してきた従来の態度とは全く異なる姿勢である。
73年の田中角栄首相の訪ソの際には、日本は賢く攻めて北方領土問題とは2島ではなく4島の問題であると、ソ連側に認めさせることに成功した。
3度目のチャンスは93年である。ベルリンの壁崩壊を受けて旧ソ連は91年に消滅、新生ロシアは軍事力で米国に完全に劣り、経済は崩壊寸前だった。
喉から手が出るほど日本の援助が欲しかったエリツィン大統領は93年10月に日本を訪れ、北方4島が歯舞、色丹、国後、択捉だと、各島々を固有名詞で特定した。日本は4島一括返還の実現にさらに近づいたのだ。
ここまで辿りついたのは、国際社会の力学の変化がもたらす歴史のうねりを、完璧にとらえたとまでは言えないものの、大きく見誤る愚は犯さなかったからだ。領土問題が進捗しなくとも、解決に時間がかかるのが当然と悟り、焦らなかったからだ。
橋本氏のように、ロシア首脳とファーストネームでボリス・リュウなどと呼び合い、首脳同士の個人的関係に頼るのは真に愚かなことだ。個人的友情や信頼に軸足を置く底の浅い外交で何が達成されるものか。積み木崩しのように橋本氏らが壊した領土交渉における日本有利の実績を取り戻すためには、再び日本が93年以前の路線に戻ることだ。私心を捨て、個人的思い入れを脱し、揺らがずに長期戦略で臨まなければならない。
北方領土問題
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ちょっと度が過ぎてませんか?
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Yahoo…
トラックバック by ☆独断雑記 XYZ — 2005年11月21日 11:31